学生・大学間のコミュニケーション


 今回の調査において寄せられた意見を全体的に捉えたところ、大学・学生間のコミュニケーション不足により生じている問題が多く見受けられました。このコミュニケーションを活性化させることにより、学生・大学間の認識のギャップや、学生の持つ不満を少なくし、よりよい環境整備が可能になると考えられます。本提言では、具体的に以下の提言を述べていきます。

大学からの情報伝達
・メール活用による学生への直接情報伝達
・学生視点のWEBサイトの設置

学生からの情報取込み
・問い合わせサービスによる混乱の解消
・学生サポーターによる大学事業への学生意見の取り入れ
・学生による大学へのフィードバックの仕組み

問題点

 現在、本学の学生・大学間のコミュニケーション不足が原因と考えられる問題を具体的に述べていきます。

 図2-1に「大学からの情報源の学年別充実度」を示します。縦棒全体がその情報源を利用している割合、更にその情報源の充実度を色分けして示しています。

 まず、「学生用掲示板・電子掲示板」「学科・専攻等の掲示板」と「友人」との学部1~3年を見てみると、同程度の割合の方が利用していると分かりますが、充実度を比べてみると「友人」の方が明らかに高いことが分かります。次に、学部4年以降では「学生用掲示板・電子掲示板」の利用度は大幅に減少し、代わりに「教員等からのメール」が増加し、その充実度も高い割合を示しています。また、「大学の関連ホームページ」「学務部の窓口」については、学年に関係なく利用度も充実度も低いことが分かります。このことから、大学からの情報の直接的な伝達経路は充実度が低く、学生は友人・指導教員を介して間接的に情報を入手していることが分かります。

 間接的な情報伝達には、以下の様な問題が挙げられます。

・伝達途中で情報がストップし、学生に情報が伝わらない
・伝達に時間がかかり、締切等でトラブルが生じやすくなる
・伝達途中に内容が変わり、正確な情報が伝わらない

図2

図2-1 大学からの情報源の充実度


 例えば、研究室所属後は指導教員に送られた全学的な告知内容を含むメールが学生に転送され、学生は情報を取得する現状になっています。しかし、中にはメールの転送を怠る教員もいて、情報が伝わってこないという意見が寄せられており、研究室毎に情報の差が生じています。その他、履修申告・奨学金といった手続きの締切や、進学に必要な単位数の誤った認識などの問題は、間接的な情報伝達のために生じていると考えられます。

 以上を踏まえて、現在の東工大の情報伝達を表したのが図2-2です。

図2

図2-2 本学の情報伝達経路の現状


 図2-3に「OCWの学年別利用頻度」を示します。「OCWを知らない」方が学年によっては3割を超えてあり、これは既存サービスの認知度が低いという問題の一例です。

図2

図2-3 OCWの学年別利用頻度



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図2-4 充実してほしいサービスの学年別割合


 図2-4に「充実して欲しいサービスの学年別割合」を示します。ここからは「多様な奨学金」や「アルバイト紹介」、「進路・就職に関する情報が得られる企画・活動」「実習・インターンシップに関する情報が得られる企画・活動」などのキャリア相談といったサービスに関する要望が高くなっていますが、これらは学生支援課やその他の部署において既に実施されています。このことから図2-5の様に、既存サービスの内容が学生の求めているものとずれている、または求めるサービスが存在していても学生が認知していないと考えられます。

図2

図2-5 学内サービスとコミュニケーション


 現在東工大のWEBサイトは部門(専攻、課など)ごとに独自に製作・更新している状況であるため、階層構造が統一されておらず、利用者である学生の視点からすると目的の情報に辿り着き難い構成になっています。

 例えば、図2-6,7の様に、東工大WEBサイトのトップページから学生支援課で行っているアルバイト紹介サービスのページへ辿り着くためには、

[東工大WEBサイトのトップページ]
→[学生/教職員向け]
→[学生支援センター]
→[アルバイト/家庭教師]
→[東京工業大学アルバイト情報ネットワーク(学生アルバイト情報ネットワーク)]

に行った上でメンバー登録する必要があります。


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図2-6 東工大WEBサイト「学生/教職員向け」ページ


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図2-7 東工大WEBサイト「学生支援センター」ページ



 このように、東工大サイト内の階層が深く、目的ページに辿り着くまでに様々なページを経由しなければなりません。また、「学生支援センター」を経由する必要がありますが、学生側は「学生支援センター」がどういった業務を担当する部署なのかをあまり認識していません。そのため、「アルバイト」と「学生支援センター」を繋ぎ合わせられず、目的ページに到達しにくいという問題があります。

 その他、図2-8,9に示すように、閲覧者に分かりにくい構成のページも存在します。


図2

図2-8 学務部ホームページ


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図2-9 教務課ホームページ


 しっかりとした理由があるにも関わらず、それが周知されていないために生じている問題があります。例えば、図2-10の南一号館横にある大学外への通路は私道であり、大学と地域住民との協定により、学生の通行は禁止されています。しかし、今回の調査における自由記述欄に、「なぜ通行禁止にするのか」という意見が寄せられています。これは通行禁止には協定という理由があることの、大学から学生への告知が不十分であるために生じている問題と考えられ、理由を認知していない分、更に不満が高まっていると考えられます。

図2

図2-10 南1号館横の学外への通路


 図2-11のTokyo Tech Frontを始めとして、新図書館、図2-12の南4号館、南4号館内に出店するコンビニ、大岡山-石川台間の通用門、石川台地区の駐輪場、生協に導入された電子掲示板など様々な施設が現在建設中または最近できましたが、これらに関する情報はインターネット上や大学内においてほとんど公開されていません。研究室や講義室の移動といった直接的に関係する場合以外にも、大学内の通行や工事車両の増加など、施設拡充による学生に対する影響は多く見られると考えられます。

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図2-11 建設中のTokyo Tech Front


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図2-12 建設中の南4号館


 またこれらの建設や設置に際して実際利用をする学生の意見を聞く取り組みはなされておらず、新図書館に対する自由記述にはデザインに不満を持つ声も寄せられています。図2-13の石川台地区に最近新たに設置された駐輪場は各講義棟から距離があるため、学生は従来通り講義棟前に駐輪し、駐輪場の利用度は低く、駐輪問題もあまり改善されていません。これに対しては、設置前に事前に学生に対してヒアリングを行えば防ぐことができた問題と考えられます。

図2

図2-13 石川台地区駐輪場


 学生が利用する施設の場合、計画前に学生の意見を取り入れる仕組みを作ることで、学生の必要とする設備を整備でき、無駄のない施設拡充が出来ると考えられます。

具体的提言

 大学からの情報伝達に関して以下の2つの提言を行います。これらを実現することで、従来は手に入れにくかった情報を学生は容易に入手することができ、大学側は学生への重要な情報を確実かつ迅速に伝達することを可能とします。

メール活用により情報を学生に直接伝達する


 既存の主な大学からの情報伝達手段は掲示板とWEBサイトですが、掲示板がうまく機能していないことは図2-1から分かります。これらは、大学側が用意した情報を学生から自らの意思で取得しに行くPULL型の情報伝達手段と言えます。掲示板の場合、その設置場所まで足を運ばなければいけないこと、WEBサイトの場合、先述の様に階層構造やページ構成が複雑であるという問題点があります。WEBサイトは今春大幅にリニューアルされ、RSSも設置され改善が見込めますが、それでも講義や奨学金などの学生が個別に必要とする情報の更新は分かりにくいと考えられます。
 以上の様な現状を踏まえて、今回は大学から情報を学生に直接送り出すPUSH型の情報源であるメールの活用を新たな情報伝達手段として提案します。

 現在東工大の全ての学生が、東工大ポータルよりMドメイン(@m.titech.ac.jp)のメールアドレスを取得可能です。Mドメインのメールアドレス宛に学生に必要な情報を教職員から情報を配信出来るようにするのが、最も有効で確実かつ迅速な情報伝達手段と考えます。1度の情報量が多くなる場合は、メールに内容の概要のみを記載し、内容を詳細に記載したホームページへのリンクを貼ることで対応可能かと考えられます。
 また、学科や専攻、学務部の各部署、講義の担当教員などが、そのグループごとにMドメインのメーリングリストを作成出来るようにします。これにより、教員の都合により急に休講となった際に、従来は当日大学に来て初めて知るといったトラブルがありましたが、それを未然に防ぐことが可能です。本学は首都圏の大学ということもあり、1時間以上かけて通学する学生も多く見受けられます。また、学生支援センターがホームページ上で提供している奨学金や家庭教師の募集といった情報も、希望者参加型のメーリングリストを作成することにより、情報を必要としている学生に、毎回ホームページをチェックすることなく迅速に情報提供が可能となります。以上のように、メーリングリストを作成することで、情報を必要としている人に迅速かつ確実な情報提供が可能となります。

 これらのメールの活用による情報伝達をまとめたのが、図2-14です。

図2

図2-14 メール活用による大学から学生への情報提供


 以上の様なシステムを有効利用する上で、学生がメールをチェックするかという問題が予想されますが、これに対しては2つの対策が考えられます。

 まず、重要な情報をメールにより得ることが出来る状態を作り出すことで、学生は必然的にメールをチェックすることになります。
 また、学部1年時の情報リテラシ関係の講義においてMドメインのアドレス取得を行っていますが、その際に携帯電話やその他のメールアドレスといった各学生が頻繁にチェックするアドレスへの転送設定のほか、メールソフトでのMドメインのアドレスからのメールの受信方法を必ず講義します。これにより、学生が大学からのメールを頻繁にチェック出来る環境を整備します。教員によっては1年生にメールの転送設定を教えている方もいらっしゃるようです。

学生視点のWEBサイトの設置


 先述のように、東工大WEBサイトに関しては今春にリニューアル予定となっています。評価・広報課にお話を伺ったところ、広報サポーターから東工大のサイトに対して意見を取り入れることで、学生用のタブを設けて既存サービスへの直接リンクの設置、RSS導入により更新情報を入手しやすくしていくなど、利便性の向上を図っているということです。

 このリニューアルにより、情報入手が著しく困難な現状はある程度の改善が見込めます。しかし、評価・広報課の担当以外の範囲では、各部門が独自にサイトを作成・情報発信している状態では、サイトの階層構造やページのレイアウトの不一致、情報量・更新頻度などに差異が生じます。学生が利用しやすいサイトの制作のためには、東工大のサイトを総合的に統一した形式で、かつ各部署のページに点在した情報を利用者視点で管理することが有効であると考えられます。例えば、現在ピアサポーターや理科支援員といった学生サポーターの募集は各担当部署で行っていますが、図2-15のように各サポーター募集の告知は1カ所に集約した方が学生としては見つけやすくなります。同時に、集約することで募集ページへのアクセス数が上がり、応募者数も増えることが予想されます。

図2

図2-15 ホームページ上に点在した情報の集約による効果


 また東工大のサイトの中には、東工大ポータルのWEBメールやOCW、講義支援システムであるOCW-i、附属図書館のTDLオンライン・サービスなど、学生向けのオンライン・サービスが存在していますが、各サービスは点在していて扱いにくい状態になっています。これに対し、将来的には東工大のオンライン・サービスを統合し、学生が必要とする情報にも簡単にアクセス出来る学生専用のポータルサイトが今後の展望としてあると、利便性が高まり良いのではないでしょうか。現在の東工大トップページには学生と関係が薄い情報も多く、学生のアクセス数はあまり高くありません。ですが、ポータルサイトのように、学生が必要とする様々なサービス・情報を集約したページを作れば、先述のように多種多様な学生が閲覧し、アクセス数が上がります。そのポータルページに履修申告や入構規制などの重要情報を広告バナーのような形で掲載すれば、多くの学生の目に触れることになり、情報伝達の効果的な経路の一つとなりえます。

 既存の一般的なポータルサイトの例として、図2-16,17にYahoo! JAPANとGoogleのiGoogleを示します。

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図2-16 ポータルサイト「Yahoo! JAPAN」トップページ


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図2-17 様々なサービスを統合出来る「iGoogle」トップページ


  • 学生からの情報取り込み

 学生からの情報の取り込みとして以下の3つの提言を行います。これにより、学生から大学へのフィードバックを円滑、かつ確実なものにし、より東工大に適した大学の事業の推進を促進します。

問い合わせサービスによる混乱の解消


 学生生活を送る上でトラブルが起こったり、疑問に思ったことがあったりした際に、大学事務局の各部署にメールや窓口に直接問い合わせると丁寧に対応して頂けます。しかし、学生からの視点では、教務課や学生支援課といった名称だけではどんな業務を扱っているのか判断が難しく、どの部署に問い合わせればいいか分からないといったことが起こります。これは入学したばかりの学部1年生に特に顕著に現れ、結果として問題を放置したり、いくつもの部署をたらい回しにされたりしたという声も寄せられています。
 この様な問題に対し、図2-18のような窓口を1カ所に集約した問い合わせサービスによる混乱解消を提言します。これには窓口受付とオンライン受付との2つが考えられます。

図2

図2-18 受付の集約による混乱の解消


 まず窓口受付について。何かトラブルが起こった際にその窓口に問い合わせに行けば、担当部署に問い合わせ・案内して頂ける窓口サービスです。特に問い合わせ数が多い事項については、その場で対応することを可能にするとよいかと考えられます。
 次にオンライン受付について。専用メールアドレスや東工大サイト上にメールフォームなどを1カ所に集約して設置し、事務手続きや履修規定を含めた各種質問および要望等を受け付け、事務局各部署で回答・対応するサービスです。既存のもので例えばAskサービス(http://www.kg.jim.titech.ac.jp/ask/index.html)がありますが、学生の認知度・活用度は低いようです。学生が気軽に質問・要望出来る場所が必要と考えられます。
 またこのオンライン問い合わせサービスを通じて寄せられた質問・要望とそれに対する回答をまとめたFAQ集などを整備することも有効と考えられます。東工大WEBサイトの利便性向上にもつながることや、学務部の窓口に行かなければわからなかったことも容易に情報を入手可能になると考えられます。

学生サポーターによる大学事業への学生意見の取り入れ


 先述のように、学内の各種サービスや施設拡充の際に、学生側のニーズとの間にずれが生じることがあり、これは学生と大学間のコミュニケーションの不足により起こっています。これに対し、学生サポーターの拡充により大学事業への学生意見の取り入れを行い、学生のニーズに合った事業を推進することを提言します。現在、学生サポーターにはキャンパスガイド、広報サポーター、理科支援員、ピアサポートなどが実施されています。キャンパスガイドや広報サポーターによる「Tech Tech」などは、受験生が求めている情報を、元受験生の学生視点で提供することが出来ています。広報サポーターによる今春の東工大WEBサイトリニューアルへのアドバイスや、ピアサポーターの先輩からのアドバイスにより、利用者である学生視点での大学事業推進が出来ています。この他にも現在は実施されていませんが、例えば以下の様なサポーターが考えられます。

教務課
・単位互換制度のサポート(東工大と他大の科目のバランスの取れた履修や、他大科目の履修難易度などに関するアドバイス)
・教務課ホームページの改善点
・よりよいサービスのための学生視点での意見
学生支援課
・エコチャリ・プロジェクトのサポーター
(詳しくは、学生のモラル・マナー関係を参照下さい)
・学生支援課ホームページの改善点
・よりよいサービスのための学生視点での意見
附属図書館(詳しくは、附属図書館関係を参照下さい)
・附属図書館ホームページへの改善点
・よりよい図書館内設備・サービスへのための学生視点での意見

 図2-19「本学・学生のために出来ること、そのような気持ちを持つもの」を見てみますと、理科支援員などを始めとして非常に多くの学生が大学のために活動してもよいと考えています。

図2

図2-19 本学・学生のために出来ること、そのような気持ちを持つもの


 現に本調査のスタッフを募集した際には、最終的に33名もの方に参加していただけました。しかし、「実際どういったことをするのか、どこで募集しているのかわからない」、といったようなことが大学から学生に伝わっていなく、実際の志望者数が低いことがあるという、これもまたコミュニケーションの問題があると考えられます。意識の高い学生を生かすためには、そういった学生サポーターに関する情報を伝達するために、募集の情報を1カ所にまとめ、より多くの方により詳しい情報を閲覧してもらうことが効果的と考えられます。

 以上の様に、広く学生の意見を聞き入れた上で大学事業を推進していくために、サポーター活動の拡充や学生への周知を行うことが重要ではないでしょうか。

学生による大学へのフィードバックの仕組み


 今回調査を行った中で、数年に一度行う学勢調査だけでは学生の意見をカバーできない問題が浮かんできました。

・大学内の各組織に対する細かい要望に関しては、学勢調査ではカバーしきれない
例:図書館24時間開放の必要性・生協食堂のメニューへの意見
・施設拡充の際に学生の意見が取り入れられず、ニーズとのギャップが起こる
例:石川台地区駐輪場の低利用度
・学勢調査を受けての対策が単発で終わったり、対策に対する再評価が行われたりせず、具体的な改善効果が見られない
例:教務課接遇研修への評価
・既存のサービスが適切に評価・改善されず縮小化・形骸化しているものがある
例:証明書自動発行機の24時間稼働・教務情報システムの停滞

 これらに対する1つの対策として、先述のサポーター制度により大学の日常的な事業に関して適宜学生の意見・評価を取り入れる仕組みが考えられます。
 その他、新たに施設を拡充する際などに、新図書館に対する今回の学勢調査のように、広く学生の意見を募る機会が必要ではないでしょうか。そういった調査を中心となって行う学勢調査室、またはそれに準ずる機構を学生と大学の間に常設することも、1つの有効な手段と考えられます。
 今後大学と学生のコミュニケーションがうまく機能しているのか、今回の調査・提言を受けて大学がどのように変わっていくのかを知るためにも、継続的に意見収集・評価を行い学内外へ発信していくことが重要であると考えます。

 以上から、図2-20のように学生・大学間の情報伝達と情報取込を円滑化させ、コミュニケーションを活性化させることで、「学生の求める大学の事業」と「大学の施設・サービス」を一致させることが可能となり、本学のよりよい環境整備が実現されると考えます。

図2

図2-20 学生・大学間のコミュニケーション


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2010 Tokyo Institute of Technology