設問No.4-7「留学を考える上での障壁を取り除くために、どのような新しい制度、授業科目、サービスがあれば良いか教えてください。」と設問No.4-8「東工大の現在の留学制度について意見があれば教えてください。」に以下の意見が寄せられました。
- 経済的支援の不足(同様意見120件)
- 制度的な障壁(同様意見93件)
- 情報不足(同様意見77件)
- 言語的障壁(同様意見49件)
意見が寄せられた上記2設問に加えて、設問No.4-1「あなたは留学したことがありますか。」、設問No.4-3「在学中に留学したいと思いますか。」、設問No.4-4「留学しようと思ったきっかけを教えてください。」、設問No.4-6「留学を考える上でなにか障壁はありますか。」をもとに分析を行いました。
設問No.4-1留学経験
- 図 4-2.1 A より、本学では留学を強く推奨1していますが、日本人学士課程の学生は入学前も在学中もほとんど留学 していません。また、学年が上がるにつれ在学中の留学者は増加すると予想していましたが、ほとんど増加が見ら れていません。

設問 No. 4-3 留学希望
- 図4-2.2Aより、学士課程の中で若い学年の留学希望者は多いですが、実際に留学に行く学生は少ないです。
- 「積極的にしたい」「機会があればしたい」を選んだ回答者は、具体的な計画はまだないが留学したいと思う意思 のある層です。留学計画の策定を促せば実際に留学する可能性があると思われます。その中でも特に低学年へ の支援が留学者数増加の鍵になると考えられます(図 4-2.2 B)。

設問No.4-4留学のきっかけ
- 図 4-2.3 で示されるように、留学の動機は多様で、個人の成長、学問的目的、周囲の影響、キャリア形成が絡み 合っていると思われます。また、「『海外留学の手引き』を見て」選択者は、所属課程別で見ると、「その他(自由記 述)」以外の選択肢と比較して、最も多い、もしくは 2 番目に多いため、大学からの留学促進に向けた働きかけの 有効性が確かめられると思われます。

(日本人、学士課程、「その他(自由記述)」の選択肢を除く)[%]


※α÷β、但し、α:各学院・系別の「在学年数が伸びることが不安」と回答した人数、β:各学院・系の合計人数
「その他」の自由記述では、日本人学士課程学生から142件の以下の意見が寄せられました。
- 大学の制度やサービスに直接関連するもの(9件)
- B2Dの制度要件(同様意見3件)
- 大学のWebページ(同様意見3件)
- 理学院リテラシーの講義
- 研究室が国際色豊かだったから
- 留学生との交流(応用化学系2年)
- 大学の制度やサービスに直接関連するもの以外(133件)
- 周囲の影響(31件)
- 周囲の人間が勧めてきた(同様意見15件)
- 周囲の人間に留学経験がある(同様意見13件)
- 経験者の話を聞いた(同様意見2件)
- よく話題にされる
- 自己成長・学びのため(28件)
- 異国の地に行く経験を積むため(同様意見12件)
- 英語の習得(同様意見4件)
- 価値観の更新(同様意見4件)
- 海外の研究内容を見てみたい(同様意見3件)
- 海外でも勉強がしたい(同様意見3件)
- グローバルな人材になりたい
- インターンを経験したい
- 興味・憧れ(27件)
- 海外に行ってみたい(同様意見9件)
- 留学自体への興味があった(同様意見8件)
- 留学の経験は他では補えない(同様意見4件)
- 違う世界を見てみたい(同様意見4件)
- 英語を使ってみたい
- Apple(IT企業)への憧れ
- 高校時代からの目標(26件)
- 大学入学前から目標に掲げていた(同様意見19件)
- 高校時代から目標に掲げていた(同様意見7件)
- その他(21件)
- なんとなく(同様意見12件)
- 海外に行けるのは留学が最後だと思った(同様意見2件)
- 帰国子女だから
- 講義の一環
- 様々な援助があると知った
- 海外で日本人が活躍しているテレビ番組を見た
- 彬子さまの留学記を読んだから
- 東工大生は皆留学するものだと思っていた
- 世界史が好きだから
- 周囲の影響(31件)
設問No.4-6留学を考える上での障壁-日本人学士課程学生
- 図4-2.4Aより、「経済的理由」の選択者は半数近くにのぼり、学年が上がるごとに増加傾向にあります。
- 図4-2.4Bより、「語学に自信がない」はどの学年でも半数を超えています。特に学士課程1、2年生は3人中2人が語学力を障壁と感じています。ただし学年が上がると減っていることから、大学の語学サポートが功を奏しているのではないかと推察できます。
- 図4-2.4 Cより、「在学年数延長が不安」の選択者は、系所属後の2年生・研究室所属後の4年生で増加します。図4-2.5より、所属別は建築学系・情報通信系が35%以上と多いです。系所属後は数理・計算科学系を除く全系で5〜20%増加します。
設問No.4-7留学障壁を取り除く新しい制度案/設問No.4-8大学に求めるもの
- 以下に示す通り、学生からは、経済的負担の軽減や、語学力による留学に対する障壁の克服、留学に関する情報不足の解消、そして留学制度の柔軟性の向上が要望として挙げられました。
- 経済的負担の軽減をしてほしい(同様意見 67 件)
- 給付型奨学金の増額や新設をしてほしい(同様意見 47 件)
- 世帯収入制限のない奨学金制度増設
- 成績に応じた資金援助
- 保険制度の充実
- 東工大生向けの留学奨学金の設立
- 留学費用や奨学金の情報提供を充実させてほしい(同様意見 8 件)
- 奨学金についての情報をもっとまとめてほしい(同様意見 8 件)
- 円安や物価上昇に対応した柔軟な支援をしてほしい(同様意見 4 件)
- 円安の中、40 万円のプログラム奨学金が 8 万円では経済的理由で諦める人のサポートにならない
- 外部英語試験の受験料の補助がほしい
- 給付型奨学金の増額や新設をしてほしい(同様意見 47 件)
- 語学力による障壁の克服(同様意見 27 件)
- 英会話や日常英語に特化した授業の開設・増設(同様意見 16 件)
- もっと英会話力のつく対面講義が欲しい(同様意見 3 件)
- 曜日が偏っているので、幅広い時間帯に英会話の授業を配置してほしい(同様意見 2 件)
- 系の授業の都合上履修が難しい(応用化学系)
- 大学院生向けの英語科目(特に日常会話などに焦点をあてたもの)
- 語学力を高めるプログラムや機会の提供(同様意見 4 件)
- 単位無しで受講可能な英会話等の留学前実践プログラム開設(同様意見 2 件)
- オンライン英会話を利用せずとも英会話学習可能なプログラム(既存のプログラムは演習量不足)
- 語学について、英語だけでなく、他言語ももっと積極的に学べる制度を整えてほしい
- 英語勉強法(具体的には第二言語習得論)を教授するプログラムが欲しい
- 留学に必要な語学力の具体的基準提示(同様意見 2 件)
- 英会話や日常英語に特化した授業の開設・増設(同様意見 16 件)
- 情報不足の解消(同様意見 43 件)
- 留学プログラムや手続きの詳細な案内(同様意見 14 件)
- 授業で情報を伝えてほしい(同様意見 3 件)
- 英語の授業
- 1 年次の講義(英語教養/立志プロジェクト/科学・技術の最前線など)
- 留学先の情報や、そこに行くメリットを明確に分かるような講義が欲しい
- 留学の日程についてわかりやすくしてほしい(同様意見 3 件)
- プログラムの特徴に関する説明会(同様意見 2 件)
- 研究室に入った後の留学についての情報がない(同様意見 2 件)
- 情報工学系
- 生命理工学院
- 留学に必要な準備を、わかりやすくフローチャートでまとめた資料があると良い
- 学士ですが、修士の留学・インターンの制度が分かりにくい(システム制御系)
- 必要な語学力レベルの明示 (英検取得レベル、TOEIC 点数)
- 授業で情報を伝えてほしい(同様意見 3 件)
- 体験談や成功事例を共有するイベントの実施(同様意見 9 件)
- 留学に興味がない学生向けの動機付けイベント(同様意見 4 件)
- 留学報告会は都合が合いにくいこともあるので、経験者の事例を紹介するのに動画等の様々な形態を準備してほしい(同様意見 2 件)
- 情報へのアクセス性向上(同様意見 4 件)
- 留学交流課がいくつもあるのがややこしい(同様意見 2 件)
- 全学 Slack で留学情報専門のチャンネルを設けてほしい(材料系)
- 対面相談はハードルが高いので、チャット等で気軽に相談できる場があれば嬉しい
- VISA 取得等をサポートしてほしい
- 留学プログラムや手続きの詳細な案内(同様意見 14 件)
- 制度的な柔軟性(同様意見 51 件)
- 3 年 2Q に留学を推進している割に、選択必修や研究室選択に向けて重要な授業が多かったり、研究室配属の基準が GPT だったりして、実際は行きにくい(同様意見 13 件)
- 新規プログラムの増設(同様意見 16 件)
- 気軽に参加できるプログラムが欲しい(同様意見 5 件)
- 初学者向けの海外大との交流機会
- 国内留学のようなプログラム
- 語学留学の拡充
- 少人数のゼミなどで留学プログラムを組むといったこと
- 東工大が主催のホームステイなどがほしい
- 留学必修化(同様意見 4 件)
- 国の選択肢を増やしてほしい(同様意見 4 件)
- シンガポールやタイ等の身近な国へ短期留学
- 近場の国
- オーストラリア
- 米英向けの交換留学プログラム
- 短期派遣の種類や時期を増やしてほしい(同様意見 2 件)
- もう少し期間を延ばしたプログラムもほしい
- 対象となる学院・系が限定なものが多いので、対象を拡大してほしい(同様意見 2 件)
- 大学院進学後の、交換留学形式の長期(約 1 年)留学プラン増設
- 気軽に参加できるプログラムが欲しい(同様意見 5 件)
- 単位互換やカリキュラムの工夫をしてほしい(同様意見 18 件)
- 単位互換制度(現状、東工大にある科目のみ可/条件が厳しい等)を柔軟にしてほしい(同様意見 6 件)
- 系の学修と両立をしやすくしたり、留学の影響がわかりやすくなっていたりすると良い(同様意見 5 件)
- 早期卒業を上手く取り入れられるようにしてほしい(同様意見 3 件)
- 海外留学中でも東工大の講義に参加できるようにしてほしい(同様意見 3 件)
- 開始・終了がクォーター区切りとなるプログラムがあると履修不可能数が最小で済む(同様意見 2 件)
これらの現状を踏まえ、国際教育課とのキャンパスミーティングを実施し、以下のような回答をいただきました。
学勢調査学生スタッフからは、設問No.4-6、留学を考える上での障壁について、障壁が取り除かれる実現可能性を中心に設問を設計したこと、Q1〜3は「経済的支援」、Q4〜6は「留学情報の広報」、Q7、8は「在学年数延長の不安」、Q9は「留学プログラムの拡大縮小」を質問したことを報告いたしました。
Q1.昨年度の日本からの留学における奨学金の規模(金額と期間)とその対象者を教えていただけないでしょうか。また、昨年度の日本からの留学における各奨学金制度の制度別利用者数と利用率を教えていただけないでしょうか。
A1.国際教育課のプログラムであれば、大半の学生がJASSO・東工大基金・外部奨学金を受給しています。本学と協定を締結する大学への派遣交換留学だと毎年約50名が留学しています。1〜2か月の協定校シーズンプログラムや、TASTE短期語学学習プログラムは各20名程、1〜2週間の超短期派遣プログラムは100名弱です。
Q2.円安に対応した奨学金の設計は可能でしょうか。また、円安による経済的負担軽減策は実施されていますか。
A2.日本学生支援機構の海外留学奨学金は最大規模ですが、為替レートに対応せず金額は一律です(例:ヨーロッパ8万円/月)。半年以上の渡航には一時金13万円が支給され、国の予算に余裕があれば追加支給の場合もありました。
Q3.今後の奨学金の拡大/縮小予定・見込みがありましたら、その背景を教えていただけないでしょうか。
A3.大学独自の奨学金は寄付者の基金からです。東京工業大学基金からの支援増額要望中ですが現状難しいです。
Q4.留学広報の方法(ツール、頻度、必須情報)と、それぞれの効果(有効性・課題)はどの程度あるのでしょうか。
A4.Slackや国際交流メールニュースなどで、プログラム募集がある度、不定期に広報しています。Slackの効果は低いですが、メールは意外と読まれています。紙媒体は関心のある学生が気づく程度です。学生からの口コミでプログラムを知ったという口コミは多く、特に効果が高いと感じます。
Q5.パンフレットはどの部署が作成しているのでしょうか。
A5.「留学のてびき」というパンフレットは国際教育課で作成しています。
Q6.学士課程学生向け、特に、1〜3年生向けの告知はどのように行なっているのでしょうか。
A6.国際交流メールニュース・Slack・掲示板への掲示等。系所属や、学院の説明会で告知を行っていただくこともあります。
Q7.系や課程別の、カリキュラムと留学の設計時期は、留学生交流課と系での連携はありますでしょうか。
A7.グローバル教育オプション(旧グロ理)の超短期派遣プログラムは春・夏休みに実施しますが、海外留学プログラムは受入れ先大学のスケジュール次第で休み期間外のものも多いです。系や学院のカリキュラムに含まれていないこともあり、連携はほぼ無いです。留学推奨の立場としては必須化を望みますが、専門・他の教育が優先され、現状は難しいです。グロ理の方とは協力しています。留学の面接は先生方に担当していただいております。
Q8.留学しやすい系・コースはあるのでしょうか。
A8.融合理工学系が多いです。理学院の学生は少ないです。
Q9.今後のプログラムの拡大/縮小見込み等ありましたら、その背景を教えていただけないでしょうか。
A9.年10月から東京科学大学として新たに発足し、旧両学の留学プログラム相互利用や新プログラム構築が期待されますが、拡大の目途は立っていません。旧東京医科歯科大学のプログラムは医歯学系学生限定です。
以上を踏まえて、留学制度の改善について次のように提言します。
- 経済的負担の軽減
- 語学力による障壁の克服
- 情報提供不足の解消
- 柔軟性のある制度の拡充
(ア)給付型奨学金の増額や新設
(イ)円安や物価上昇に対応した柔軟な支援
(ウ)留学費用や奨学金の情報提供の充実
(ア)英会話や日常英語に特化した授業の開設
(イ)語学力を高めるプログラムや機会の提供
(ウ)留学に必要な語学力の具体的基準提示
(ア)留学プログラムや手続きの詳細な案内
(イ)体験談や成功事例を共有するイベントの実施

設問No.4-7、4-8の留学を考えるうえでの障壁の解決策において、学生からの寄せられている意見は、大学の留学制度としてすでに設けられていることもあることがわかりました。このことは、大学側はSlack等で情報提供しているものの、学生が情報を受け取っていない場合が多いことも明らかになりました。
そこで、留学希望が高い学士課程1・2年生を対象とする、具体的な情報伝達方法を提案します(図4-2.5)。
(ア)短期留学プログラムの充実
(イ)単位互換や在学年数延長への配慮
(ウ)フレキシブルなカリキュラム編成
(エ)新プログラムの増設
本提言の趣旨及び要約
留学に関する学生の現状を大学側に知ってもらうことが、まず喫緊の課題です。本提言が、本学が強く推奨する、留学の推進[2]においての力添えとなることを強く期待しています。
設問No.4-1「あなたは留学したことがありますか。」、設問No.4-3「在学中に留学したいと思いますか。」の回答から、「留学希望者は多いが、実際に行く学生は少ない」という現状が明らかになりました。学生が留学を考えるうえでのいくつかの障壁のうち、大学が取り除ける可能性の高い障壁として、「①経済的支援不足」「②言語的障壁」「③情報不足」「④制度的障壁」の4つが挙げられました。
他の提言が理工学系の課題解決に向けた具体策を示しているのに加え、本提言では「学生の意見」の伝達も重視します。既に制度として存在していることについての要望もありますが、学生からすると周知不足という現状にあることをお伝えします。